以前、体育授業のゴール型について解説をしました。
ここではゴール型の授業をするときの考え方を解説したのですが、今回はより具体的に教材について取り扱いたいと思います。
今回の教材は「バスケットボール」です。
最後まで読んでいただくと、バスケットボールでゴール型を構成したときの単元計画やドリル、タスク、メインについてのヒントになるかもしれません。
1 ゴール型のおさらい
文部科学省が出している学習指導要領には「バスケットボールを指導しましょう」とは載っていません。
どのように載っているのかというと「E ボール運動」ゴール型として載っているのです。
つまりバスケットボールという教材を通じて、ゴール型で教えるべき技能を身に付けさせるということになります。
例えばゴール型というのはどのような教材が考えられるでしょうか?
・バスケットボール
・ハンドボール
・サッカー
・ラインサッカー
・タグラグビー
などです。
だから、これらの競技を教え込んで評価するというのでは、体育の授業としては、ずれています。
ではなにを評価するのでしょうか?
次の運動の楽しさや喜びを味わい、その行い方を理解するとともに、その技能を身に付け、簡易化されたゲームをすること。
ア ゴール型では、ボール操作とボールを持たないときの動きによって簡易化されたゲームをすること。
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編
第5学年及び第6学年の内容P140~
と書かれています。
ゴール型で共通して教えるべきは
・ボール操作
・ボールを持たないときの動き
・簡易化されたゲーム
となっています。
「ボール操作」が、シュートやドリブルという解釈ができないわけではないのですが、私が思う一番に教える「ボール操作」はパスです。
それは、たかだか6~8時間の授業でシュートやドリブルが完璧に身に付くわけではないからです。
ミニバスケットをやって週に2~3日やっていたって、シュートやドリブルが身に付くまでには時間がかかるのに、体育の授業では困難です。
そうなってくると身に付けるべきはパスだということが想像できます。
パスさえできれば試合が成り立つのです。
「おいおい、パスだけしてシュートもしないバスケットボールなんて聞いたことないよ!」
という意見も聞こえてきそうですが、シュートをしないとは言っていないのです。
それは後で解説したいと思います。
パスを身に付けさせるのは
で解説していますのでご覧ください。
それでは、バスケットボールを教材として取り扱ったときの授業展開をご紹介したいと思います。
2 バスケットボール授業でのドリルゲーム
チームは6チームに分けるのが無難だと思います。
1チームの人数は4人~6人です。
ドリルゲームは基礎的な技能を身に付ける場面です。
「E ボール運動」では、
基礎:ドリルゲーム(チーム内)
基礎&応用:タスク(チーム内)
応用&試合:メイン(チーム外)
として、このような考えが使われています。
では「全員でボール持ってドリブルしてみよう!」というのでは、子どもはイマイチやる気を出しません。
もちろん「2人ペアになって対面パスをし合おう!」でもやる気を出しません。
だからドリルゲームという形をとって基礎練習もゲーム性を出すのです。
このようにコートを存分に使って、シュートやドリブル、パスという動きをローテーションでやっていくのがおすすめです。
「さっきパスを身につければいいっていったじゃん!」
というご意見もあるかもしれません。
ですが、体育でのバスケットボールは、ドリブルはあまり必要ないと思いますが、シュートは必要ないとは言っていないのでドリルゲームの中には組み込んだ方がよいのです。
一つの場所を1分ずつで行っていくことで、子どもたちは流れを知って、できてもできなくても流れていくと思って、授業にテンポが生まれます。
また、ドリルゲームで身に付かないものは深追いしたくなるのですが、結局パスは実践で一番身に付きます。
だからパスができないからと言ってドリルゲームに時間を費やすのではなく、次のタスクゲームにいくという勇気が必要です。
3 バスケットボール授業でのルール変更
ここで学習指導要領からの考えが必要となります。
・ボールを持たないときの動き
・簡易化されたゲーム
の2つです。
バスケットボールという競技をやらせようとすると大変困難です。
ルールを覚えるだけで数時間を費やしてしまいます。
体育授業において説明が長くなるルールは変えてしまった方がいいのです。
体育をするときに心がけてほしいことは
「30秒で伝わる、伝える」
です。
ルールが難しくて伝わらないのだったら、30秒で伝わるほどに簡単に変えていいのです。
もちろんそれは理想で1分2分くらいはしゃべってしまうことなんて多々あると思います。
でも、子どもたちが理解できず、説明に5分を費やし、その後の5分が質問タイムでは体を動かす時間がなくなってしまいます。
だから体育授業でのバスケットボールのルール変更としては
バスケットボールの3歩までというルールは子どもたちはよく知っています。
もちろん知らない子もいます。
でもこの3歩を5歩という風に変えることで「3歩しか歩けない」から「5歩も歩ける」という考えに変わってきます。
「どれだけ歩いてもいい」とすると、タグラグビーとの境目がなくなり、バスケットボールの特性を少し残すとすれば、このルールだと思います。
ただ、児童の実態で「5歩では困難」と判断した場合には「7歩までOK」「どれだけ歩いてもOK」としても良いでしょう。
バスケットボールでシュートは醍醐味です。
でもシュートを決めるというのは大変困難なことなのです。
だからその困難さを減らし、誰でも得点チャンスを生むためにはリングに当たっただけで得点とするのが無難なのです。
高学年になれば、リングに当たれば1点、リングを通れば2点という差もわかるでしょう。
女子得点として+1点とすると全員参加の糸口ともなるでしょう。
そして遠くからただ放ってしまうシュートを避けるために、台形からのシュートは+1点とすると、ちゃんと近づいてリングを狙うようになります。
このドリブルなしというのは2つの意味を込めています。
1つは、ドリブルの技能を身に付けるのは困難だということです。
学習指導要領で学ぶべき「ボールを持たないときの動き」を頑張ってしている子がいたとしても、ドリブルに夢中でボールばかりを見ていて、空いているスペースに動いた子を見逃すのであれば意味がありません。
だったら最初から顔を上げてパスをする相手だけを探せるようにするのが無難です。
ドリブルをしていることでパス相手を探せない、パス相手は本当に意味のある動きをしたのかというところでちゃんとした評価をしてあげることができなくなってしまいます。
もう1つは、経験者しか活躍しないのを減らすということです。
そもそもドリブルをしたがる子というのはバスケットボール経験者です。
その子が1人でボールを運んでシュートまで行ったのではその子の正当な評価にも繋がりません。
だからそんな経験者には
「経験者だからこそ、回りを見渡してパスをさばく」
ということを意識させましょう。
そうすることでチーム全員がまとまって得点を目指すようになります。
このようにルールを柔軟に変更することで、誰もが活躍できる授業にすることができます。
得意な子だけが活躍したのでは、苦手な子は体育が嫌いになって当然です。
苦手だけど体育は好きを目指すには、誰もが活躍できる授業作りが必要です。
4 バスケットボール授業でのタスクゲーム
以上のルール変更を踏まえて行うタスクゲーム(チーム内)でおすすめはアウトナンバーのゲームです。
アウトナンバーとはオフェンスの人数が多く、ディフェンスの人数が少ない状態のことです。
例えば2対1や3対2です。
何度もお伝えしている通り、学習指導要領では「ボールを持たないときの動き」を指導することになっています。
つまり「得点に繋がるための空いているスペースを見つけてそこに移動すること」が重要となります。
だから、いくら空いているスペースだからと言ってセンターライン付近でずっとパス交換をしていたのでは意味がないということです。
1回でシュートに繋げる必要は全くありませんが、最終的にはシュートに繋げるための空いているスペースに移動できることこそが大切だと文部科学省は言っているのです。
だから極端を言えばシュートが決まらなくても、その場所に移動した子は評価されるということです。
たまたまシュートが全然入らなくて試合に負けたとしても、チームとして動きができていたのであれば、評価されるということです。
それでは2対1や3対2の解説をしたいと思います。
2対1では、オフェンスが2人なので、1人ががら空きになります。
そのがら空きの1人がリング付近に移動して、パスをもらうという練習です。
このときに考えられるのはシュートを打たれたくないディフェンスがリング付近にいるオフェンスのところで守るということです。
そうしたらボールを持っているオフェンスがそこからシュートを打てばいいのです。
必ずしもパスをしなければいけないルールだと守られてしまいますが、シュートを打ってしまうのであればディフェンスは圧倒的に不利です。
それでいいのです。
それがねらいなのです。
基本的な考え方は3対2でも2対1と同じです。
必ず1人はがら空きになるので、その子をうまく使うことを考える練習です。
オフェンスが3人になることで攻めのバリエーションが増えます。
コートの片側に寄ってしまうのか、全体を使うのか、フリースロー付近でボールを経由するのか・・・
作戦はさまざまです。
このときにより有効な作戦を考えたチームは思考が高いということになります。
そこで思考の評価を取る事ができます。
ここでタスクゲームを終わりにしてメインゲームに入るという方法もありますが、3対3を入れてより実践的なタスクゲームをする方法もあります。
3対3ではアウトナンバーではないので、なんとかして自分たちでがら空きの1人を作りださなければいけません。
ここにゴール型の楽しさがあるのです。
どうやったら空いているスペースを作ることができるのか?
味方によって作り出された空いているスペースにとびこむことができるのか?
これができるとバスケットボールを教材として扱った甲斐があります。
ちなみにここまでのタスクゲームではドリブルなしです。
前述したようにパスを出すためにはドリブルはノイズとなってしまいます。
パスを出すべきタイミングを逃してしまうのでドリブルはさせません。
5 バスケットボール授業でのメインゲーム
バスケットボールでのメインゲームまでにタスクゲームで、簡易化されたゲームを行い、スペースの見つけ方やパスの出し方を学んできました。
そして3対3までを行ってきました。
ここまではハーフコートで行うのがいいでしょう。
チームない練習でしたので戦術の確認をしながら練習をします。
しかしメインゲームではやはりオールコートでやらせましょう。
ハーフコートよりもスペースを見つけやすくで新たな戦術が加えられるかもしれません。
速攻という考え方です。
相手のリバウンドを取ったときに、味方がゴール目がけて走ったらそこにパスを出す。
そんなシーンが見られれば最高です。
メインゲームでは、そのようなスペースをより活用できるために4対4でいいと思います。
5対5が本来のバスケットボールですが、ここもスペースを見つけやすくすることを重視しましょう。
3対3でもいいのですが、運動量が多すぎてしまうので4対4が最適解かと思います。
6 まとめ
今回はバスケットボールを教材として取り扱ってゴール型をするときの組み立て方を解説しました。
バスケットボールで言えば、シュートが決まることやドリブルで相手を抜き去ることを一番に教えるべき
ゴール型で共通して教えるべきは
・ボール操作
・ボールを持たないときの動き
・簡易化されたゲーム
となっています。
バスケットボールの競技を教えるのではなく、ゴール型を教えるということを常に意識しましょう。
だからルールも積極的に簡易化していいのです。
・ 5歩まで歩いていい
・ リングに当たったら得点
・ ドルブルなし
30秒で説明でき、理解できるルール変更が子どもにとってはいいでしょう。
ただ、ドリブル練習やパス練習をするのではなく、ゲーム性を取り入れて行うことで子どもたちのやる気を引き出すことができます。
② タスクゲーム
2対1や3対2などのアウトナンバーでの練習を取り入れることで、文部科学省が言っている
「ボールを持たないときの動き」
を身に付けることができます。
シュートを決めた子ではなく、ドリブルが得意な子ではなく、シュートに繋げるために空いているスペース見つけて動く子を評価してあげましょう。
③ メインゲーム
メインゲームはオールコートでやると戦術がより多くなります。
4対4でやるのが最適解でしょう。
以上がバスケットボールを教材として選んだ場合のゴール型の授業計画です。
自分なりの授業を作りだして、子どもたちに楽しみながらゴール型の動きを身につけさせてあげたいものです。
ただ、子どものころはこうやって空いているスペースを求めてゴール型の授業を行っていますが、大人になるとゴール型で空いているスペースを探すことは激減します。
でも小学生のうちに上手に空いたスペースに移動できるようにしておくと、大人になって鍋の空いたスペースに食材を入れるのが上手になります。
そう、鍋奉行です。
そんなときは野菜と野菜の間に絶妙に空いたスペースには、海鮮やマロニーを入れて豪華な鍋にしてください。
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