「この運動やったことがないのに、ちょっとだけできるぞ?」
「見たことはあるけど、できそうな気がする」
こんな経験ってありませんか?
運動やスポーツをするための動きができるようになるためには、普段の動き方が大きく影響してきます。
そして普段の動き方とは違う動きが運動やスポーツの技能習得への鍵となっています。
「普段の動き」とか「普段の動きとは違う」とかわけがわからないことを言っているなぁと思うかもしれませんが、今回は運動やスポーツの基本となる「動き方」について考えていきたいと思います。
最後まで読んでいただくと、普段から運動やスポーツを意識して動くことができるかもしれません。
1 スキーマ理論
スキーマ理論というのは
「人が物事を理解したり記憶したりするときの枠組みとなる抽象的で一般的なルール」
のことを言います。
文字にすると難しいのですが、
そのときに「犬と散歩をしている」とたいていの人が思います。
その犬は初めて見た種類の犬で、一見ライオンのようにも見えます。
でも犬と判断できるのはどうしてでしょうか?
それはスキーマ理論という考え方があるからです。
「犬という抽象的で一般的なルール」があなたの中にあるのです。
・ 人に首輪を付けられて散歩をしている姿
・ 「ハァハァ」と舌を出して息を切らしている姿
・ 「ワンワン」「キャンキャン」という鳴き声
・ 毛なみ
このような一般的なルールから犬という風に判断をしているのです。
だから初めてみたものでも「犬」「車」「食べ物」など判断をすることができるのです。
逆を言えばその抽象的で一般的なルールがなければその判断もできないということになります。
そのようなスキーマ理論のおかげで、すべての種類の犬を図鑑やインターネットで調べて頭の中に入れる必要がないのです。
抽象的で一般的なルールさえあれば、ある程度の判断がくだせるということです。
これは運動やスポーツにも言えます。
運動指導の心理学新版 運動学習とモチベーションからの接近 [ 杉原隆 ]
2 運動場面のスキーマ
「今日の授業はハンドボールです」
と言われたときに「バスケットボール部」と「バレーボール部」のどちらが最初から上手だと思いますか?
そう、バスケットボール部です。
もちろん絶対ではなく一般的に考えての話ですが。
バスケットボールは「パス」「ドリブル」がハンドボールにとても似ています。
一方バレーボールは「トス」「アタック」はあるもののハンドボールとはあまり似ていません。
やったことがない動きではあるけれど、それに似た動きをやったことがあるということは、スキーマ理論が働き、動き方の引出しから動きをもってきて行っています。
野球もだいたいの人が全くできないわけではないのは、子どもの頃に「棒を振り回した」ことや「河原で川に向かって石を投げた」ことや「ドッジボールをした」という経験が野球のいろいろな技能の役に立っているのです。
では体操競技で「後方宙返り」をするように言われたとします。
この動きってあまりやったことがありません。
あるとすれば視覚的な情報で「テレビで見たことがある」程度かもしれません。
見たことがあるという情報だけでもまだいいのですが、やはり動きとして似た動きをやったことがなければやり方の想像がつかないのです。
たびたびこのブログで「子どもの頃はたくさん公園で遊ばせて、遊具やおにごっこをして、さらにお手伝いをさせましょう」と紹介したのはこういう理由です。
ジャングルジムでバーを引っ張ったり、ぶら下がったりすることは、後の鉄棒につながります。
逆さ感覚も身につき、習わずに逆上がりの基礎を学んでいます。
芝生でゴロゴロ転がるのは、後にマット運動の前転や後転につながります。
たくさんの遊び経験はたくさんの運動経験へとつながり、スキーマとして「後に」引き出されることになるのです。
3 親子でできる手軽な運動経験
できるだけたくさんの遊び経験が運動経験につながることがわかりました。
ここからは遊びの中ではなく、あえて運動してみようという手軽運動です。
一人だと続かないかもしれないので、親子でやってみると楽しみながらコミュニケーションがとれるかもしれません。
立ったり座ったりすることは、基本ですが多くの場面で役に立つ技能です。
【つま先立ち】
① 両足を肩幅に開き、まっすぐに立ちます。
② つま先立ちで上に伸び上がりましょう。
※ 腰や膝が曲がらずに体を一本の棒にする気持ちです。
※ 手は水平に横に上げ、バランスをとります。
【片足立ち】
① 上体をまっすぐにしたまま片足を伸ばして前に上げます。
※ 体が後ろに倒れないようにして、できるだけ足を上げましょう。
※ 上げた足が曲がらないように腿に力を入れましょう。
※ 手は水平に横に上げ、バランスをとります。
※ 腰や膝が曲がらないようにしましょう。
※ うまくできたら反対の足でもやってみましょう。
【水平片足立ち】
① 上体が水平になるように、体を前に倒します。
※ つま先と視線は体を倒した方へ向けましょう。
※ 腰や膝が曲がらないようにしましょう。
※ うまくできたら反対の足でもやってみましょう。
【だんご座りバランス】
① よく言う「体育座り」をして、足を床から離して、膝と腰を曲げて膝を抱えます。
※ お尻だけでバランスを取れるようにしましょう。
※ うまくできたらお尻でバランスをとりながら足を伸ばしてみましょう。
【だんごゴロゴロ】
① だんご座りバランスの状態から、後ろに転がりましょう。
② 転がったら戻ってきて足裏でまた立ちあがれるといいです。
※ あごを引き背中を丸める感じで行う。
※ 前転や後転につながります。
普段の生活にはあまりない動き方です。
「腕」で支える感じをつかみましょう。
【動物歩き】
① 両手両足を使って、前後左右に歩きます。
※ 腰を高くして、腕に体重を感じるようにしましょう。
※ うまく歩けたら走ってみましょう。
【クモ歩き】
① おなかを上に向け、両手両足を使って前後左右に歩きます。
※ 両手は広めについて、しっかり腕を伸ばして支えましょう。
※ 腰を伸ばしてお尻と膝が同じ高さになるようにしましょう。
【アザラシ歩き】
① 体を反らせて両足は使わず、両腕だけで前に歩きます。
※ 腕を伸ばしましょう
【ボールアザラシ】
① アザラシの姿勢でボールに足を乗せ両腕で支えます。
※ ボールには足先を乗せ、腕、腰は伸ばします。
※ 腰が曲がらないようにしましょう。
※ うまくできたらボールを中心としてボールのまわりを1周回ってみましょう。
※ 小さいボールでもやってみましょう。
【カエル倒立】
① 四つん這いの姿勢から、曲げた肘に膝の内側を乗せます。
② 足を床から離してバランスをとります。
※ 足はゆっくりと床面から離します。
【カエルジャンプ】
① 四つん這いの姿勢から両手で体を支え、はずみをつけて両足を床から離します。
※ 手は肩幅くらいについて、肘は曲げません。
※ 少しずつ高く足を上げ、空中で足裏を叩いてみましょう。
【ウサギジャンプ】
① カエルジャンプから手と足を交互に着いて進みます。
※ 手でジャンプする感じで、リズミカルに進みます。
※ 手と足が同時に床に着かないようにしましょう。
4 まとめ
今回はどうしてやったことがない運動なのにできるのか?について考えてみました。
始めてやる野球なのになぜかボールが投げられる、なぜかバットを振る事ができる。
ルールがわからないということや活躍するかしないかに関わらず野球をやることはできるはずです。
その理由はスキーマ理論という考え方から説明がつきます。
スキーマ理論とは「人が物事を理解したり記憶したりするときの枠組みとなる抽象的で一般的なルール」のことを言います。
初めて見た犬を見て「あっ、犬だ」と思えるのは、犬という抽象的で一般的なルールが自分の中にあるから判断がつくのです。
新しい車を見て「あっ、車だ」と思えるのも、車という抽象的で一般的なルールがあるからです。
だから全くもって初めて見たものは「これは一体なんなんだ・・・」となってしまいます。
この考え方は運動やスポーツにも言えます。
野球はやったことないけど遊びの中で棒を振ったことがある。
野球はやったことないけど川原で石を投げたことがある。
ハンドボールはやったことないけどバスケットボールはやったことがある。
このような感じでたくさんの遊び経験や動き経験が運動経験に役立っていることになります。
だから、公園の遊具で積極的に遊んだり鬼ごっこをして走りまわったりすることが、後に運動やスポーツとして役立つのです。
そのような動きを積極的に取り入れることが子どもたちの運動技能へと繋がっていきます。
今回は遊びではなく、運動やスポーツに繋がりそうな動きをいくつか紹介させていただきました。
【つま先立ち】
【片足立ち
【水平片足立ち】
【だんご座りバランス】
【だんごゴロゴロ】
【動物歩き】
【クモ歩き】
【アザラシ歩き】
【ボールアザラシ】
【カエル倒立】
【カエルジャンプ】
【ウサギジャンプ】
以上が、やったことのない運動やスポーツでどうして動けるのかについてです。
たくさんの遊び経験や動き経験が運動経験に直結していくので、たくさん遊びましょう。
何でそれを使うのかは使うときがきたら、そのときにきっとわかります。
それまでにたくさんの動きを獲得しておく必要があるのです。
ただ、大人になるとそのように遊ぶ機会は激減してしまいます。
でも、のび太くんがどこでもドアを使ってついついあなたのお風呂に来てしまうことはよくあることです。
そんなときは「のび太さんのエッチ!」と言ってビンタを振りぬくと、大人のほとんどが毎日のように楽しんでいる卓球のスマッシュに役立つはずです。
だから、のび太くんが来たときには躊躇せずに振りぬいても良いと思います。
のび太くんもみなさんの卓球のスマッシュのために毎日やってきてくれているわけですからお言葉に甘えましょう。
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